治療は本当は体に悪い??(治療家の本音)

   
 私は長年東洋医学系の治療家として臨床を行ってきました。
 また20代初期から30代後半にかけては武道の指導者として青少年の育成を行い、さらにトレーナーとしてもバレーボール、ソフトボール、格闘技、野球、陸上競技などの選手とも多く関わってきました。
 また加圧トレーニングを導入するようになってからは、筋力トレーニングと治療がシームレスにつながり、治療からリハビリまでが加速度的に早くなりました。
 
 もともと早いうちから用手運動療法としての操体法を実践してきたと言う関係から、治療をする事と、姿勢を見る事や動きを見る事は切り離せないと言うスタンスではありましたが、治療時間の関係や、痛みを抱えた人を目前にした時、または直前に試合を抱えたり、自分のポジションを守らなければならないと言う追い込まれた状況の人にとっての優先順位を考えると、結果的には痛みを取る事と、動けるように、使えるようにする事を最優先にせざるを得ませんでした。 
 それはそれで良いのかも知れません。
 
 しかし種目を問わず能力がありながらも、故障を抱えたために選手としては潰れていく人たちも沢山見て来ました。
 そうなるには多くの理由があると思いますが、やはり一度痛めた部位の再発を繰り返し、最後にはプロとして再起不能となるのが一般的だと思います。
 
 プロのアスリートなどでは、肘や膝の手術を繰り返し一時的には再起しても結局その故障が原因となって引退を余儀なくされるケースがよく見られます。
 やはり種目やポジションによっては、執拗に同じ部位を酷使せざるを得ない状況がある事は否定できません。
 
 私が治療やトレーニング指導のプロを業とするようになって30年を超えた今、自分の足跡を振り返ると、現在の自分の立ち位置が、今まで描いていた理想から少しずれて来ているように感じています。
 
 私の求めてきた究極の理想は心と体とエネルギーの統合であり、これを『Human synthetic technology』として体系化していますが、視点を身体だけに限ったとしても、また自分が治療家でもあると言う立場からしても、痛みを取る事だけに終始してはいけないと言う事です。
 
 私が尊敬してやまない操体法の創始者故橋本敬三先生の言葉を借りると、『治療など下の下だ』と言う言葉の意味が、いまさらながらに重くのしかかってきます。
 
 多くのダンサーやアスリートのように、体を酷使する人達は常にどこかに故障を抱えています。
 従ってそれらの殆どの人が何らかの形で治療を受けている、と考えられます。
 しかし体が戻るべき原点として〝正しい姿勢〟〝正しい関節の位置〟〝正しい関節の動き〟が取り戻せていなければ、局所の痛みだけを取り除いたとしても、また再発を繰り返したり、さらに故障する範囲を広げていく可能性を作っている事になってしまいます。
 
 この事は見方を変えると、痛みを取るだけの部分的な治療を繰り返していると、からだ全体のバランスをどんどん崩していく可能性がある事も示しています。
 
 要するに『治療は本当は体に悪い』と言うことになってしまうのです。
 
 これは特に体の一部に刺激や外力を加えて治療する○○療法や、○○式矯正法などの他、骨格の矯正を主眼にした療法などにも同様の事が当てはまる可能性があります。
 或いは伝統的な東洋医学の鍼灸による治療も例外ではありません。
 
 骨は常に筋肉によって動かされている訳なので、正しい姿勢と言うものは、レントゲンを通して見るだけではなく、筋肉の状態と一緒に見てあげる必要があるからです。
 
 現在私が運動療法として多用している、アメリカ生まれのエゴスキューの運動療法なども、やはり操体法と同じスタンスで、姿勢と関節の動きを重要視していますが、例えば痛みを抱えた方に対して局所の痛みにこだわる事無く、体全体の姿勢を良い状態に戻す事を優先した場合、それらの痛みが消える場合もある事をから姿勢の重要性を説明する事ができそうです。
 
 特に姿勢の歪(ひずみ)と言うものは十人十色なので、操体法のようにその人の感覚に合わせて運動やその方向を補助していくと言う、その人に合わせた個人別のアプローチや、エゴスキューの運動療法のように、その人の今の状態(姿勢、動きなど)に合わせた個人別の運動プログラムが作成でき、しかもその効果が高いと言う事は非常に重要です。
 
 もちろん局所的なアプローチが不要と言う訳ではありません。
 
 痛みに対しての局所的なアプローチと、姿勢を良いう状態に改善すると言う運動療法は言わば車の両輪のようなものだと言えます。
 
 いずれにせよ、痛いから痛みを取る、そこが動きにくいから動きを取り戻すと言う部分的な発想にかたよる事は、長い目で見ると決して良い事だとは言えません。
 
 このこの事は是非一人でも多くのダンサーさんやアスリートの方達に知ってもらいたいところです。
 

ダンサーの特殊性について

  
 特にダンサーにとって問題なのは、他の運動種目とは違って、その動きの多様性にあります。
 野球やサッカーのように特定の部位に負担をかける場合は、それなりの補強法を検討する事も出来ますが、ダンスの場合は特に体幹に負担をかける事が多い割に、体幹がしっかり補強できていない人が多く、しかもダンスによっては早いスピードと同じ動きを頻繁に反復する動作を要求される事がおおいので、弱い体幹や、動きの悪い肩甲骨などを他の部分の柔軟性などでカバーしたり、代償動作(トリックモーション)の連続で補うと言う悪循環が出来上がっている事が考えられます。
  
 そこである程度年数を積んでくると、腰や股関節など体のあちこちに障害が出てくることになるのです。
 
 もちろん体が柔らかい事も重要ですが、ダンサーの場合は特に良い姿勢である事や、その姿勢を維持する為の体幹を支える筋力の問題が重要となってきます。
 
 悪くなって治療する事以上に、先ず正しい姿勢と正しい関節の位置、そして関節の動きを取戻し、常にそれを維持できるためのトレーニング(筋トレ、コアトレなど)を続ける事で初めてベストの状態が維持できる訳です。

何をどうすれば良いのか?

 各ケースに紹介した多くの写真や、理想的な姿勢のモデルを比較しながら色々と考えて見ると、痛みや違和感がある事と、姿勢の状態には何らかの関係がある事が判って来たことだと思います。
 
 ケース5のH2さんやケース6のA1さん例でもよく判るように、痛みや違和感を取る事で姿勢にも変化が現れますが、必ずしも姿勢が良くなるとは限りません。
 
 要するに、痛みや不快感が無いだけではなく、さらに理想的な姿勢であるべきなのです。

 当施設で用いている用手運動療法(F.SOUTAI)は操体法をベースに進化させたものであり、他の療法よりはかなり骨格系と筋肉系のバランスを重視しているのですが、それでも症状にこだわっただけの治療では理想的な姿勢にはなかなか届きません。
 しかし逆に明確な症状がある場合、この症状を無視してすべてをエゴスキューの運動療法だけで解決できるかと言うと、決してそうではありません。
 多くの慢性的な痛みに対してはこの運動療法だけでも十分解決できますが、これも程度によりけりで、全てをこれで解決と言うのはちょっと難しいようです。
 
 ただエゴスキューの運動療法と相性の良い治療法を組み合わせる事で、たった1回の施行で痛みが消える事も多く、多くの場合姿勢が劇的に変わる事も判っています。
 
 また当施設では治療や運動療法の効果をさらに高める為に、早くから加圧トレーニングによる刺激も応用しています。

 例えば効果を上げるのに時間のかかる手技や運動に加圧の刺激を入れる事によって、時間を短縮したり、効果を著しく高めたりする事も可能となりました。
 
 治療する事が難しいと思われていたような症状についても、かなりのものが改善可能となっています。
 
 特に今まで様々な障害を繰り返して来ている方や、いつまで自分の体が維持できるかに不安を感じている方は、現在の自分に至るまでを振り返って見て、本当に体の為に良い方法を取って来たかどうかを考えて見て下さい。

 要するに、痛みや不快感が無いだけではなく、さらに理想的な姿勢であるべきなのです。

 具体的な施術やトレーニングについては〝姿勢こそすべて〟〝エゴスキューの運動療法〟などのサイトをご覧ください。
 
※この文章に記載された内容は、多くのダンサーやアスリートの治療やトレーニング等に関わった経験やデータに基づいて書かれたものであり、特に激しい運動などをされない一般の方には当てはまらない可能性があります。

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